カテゴリー「童話」の38件の記事

泣いた青おに 17

 ⑰

 

それから3年がすぎました。

 

赤おには、村の人びととちからを合わせて、山の中に新しい畑を作っておりました。赤おにのまわりでも、たくさんの男たちが、木を切りたおし、草をかり、地面をほりおこしてはたらいています。はたらいている男たちのひたいも、赤おにのひたいも、おなじようにびっしょりと汗でぬれています。

「さあ、もうひといきだ、ここも、来年からは麦やいもが作れる。がんばろう」

「赤さん。きみはもう朝からはたらきづめだ。いくらなんでもがんばりすぎだよ。あしたから赤さんにたおれられたのでは、おらたちがこまる。あとは、おらたちでもできるで、いっぷくしておくれよ」

 

男たちから声がかかります。赤おにはその声にうなずき、くわをおいてこしをのばしました。そして、子どもたちがあそんでいるところまで歩いていき、大きな手でひたいの汗をぬぐいました。

 

そのとき、北の方から一片の黒い雲が飛んできました。それを見た一人の子どもが、ふしぎそうに赤おににたずねました。

「ねえ、青い人をのせた不思議な雲が飛んでくるよ」

 

そのことばに赤おにはおどろいて雲の方を見ました。目をこらすと、たしかにその雲の上の方に青い人かげのようなものが見えます。赤おには大声でさけんでかけだしました。

「青くん、青くんだ。青くんが帰ってきたんだ!」

 

赤おにの声に、村人たちも手を止め、赤おにのかけだした方を見ました。

 

もうそのときには、雲から飛び下りた青おにを、赤おには、ちからいっぱいだきしめていたのでありました。

「おかえり、青さん」

「おかえり」

 

村のあちらこちらから、そんな声が聞こえてきます。

 

いつしか、青おにのほほには大つぶのなみだが光っていました。

                                                                                                          〔完〕

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泣いた青おに 16

 ⑯

 

「青くん、良かった。やっと会えた。この南の山で、黄おにのジイサマに君のことを聞いてやって来たんだ。本当に良かった」

「赤くん、君だったのか……」

 

ひさしぶりの再会に、赤おにと青おにはお互いを強く抱きしめました。あのしばいの日からどれだけたったのでしょうか。2人の心の中に別れてからの日々が駆け巡り、再び会えた喜びをいっそう強く感じさせました。それは、2人が待ちこがれていた瞬間でした。 

 

ひとしきり抱き合ったあと、赤おには青おにに言いました。

「なあ青くん、どうだろう。ぼくといっしょに帰ってくれないだろうか。村の人たちも、もう君のことは誤解していない。ぼくたちのことを分かってくれてるんだ。ぼくの気持ちも、そしてきみの気持ちも……。あの家の人たちも思い出してくれたんだ。きみは驚かせはしたけれど、決してけがをさせるようなことをしなかったって。ぼくの気持ちも、きみの優しさも、村の人々に通じたんだ。だからもうこれいじょう旅をつづけなければならない理由はないんじゃないだろうか。黒おにくんたちの話もみんな聞いた。今、ぼくは、黒おにくんたちいじょうのすばらしい関係を村の人たちとつくりあげたいと思っている。君にもそれを手伝ってもらいたいんだ」

 

青おには、だまって赤おにを見つめました。赤おにの気持ち、そして、村の人たちのやさしい心づかいは、青おににもわかりました。その意味では帰れない理由はもうありません。しかし、黒おにとここの村の人たちのことを考えると、まだまだ青おににはここに残ってやりたいことがありました。

「赤くん、きみの気持ちは本当にうれしい。それに、村の人々の気持ちもありがたいと思っている。だけど、黒おにくんたちとここの里の人たちの様子を見ていると、ぼくは、もう少しここに残ってやりたいことがあるんだ。きみたちのところにもどる前に、もう少しだけ、黒おにくんたちの様子を見ておきたいんだ」

「それはいったいどういうことだい?」

「黒おにくんたちとこの村の人たちは、ほんとうにすばらしい関係をつくっている。けれどもそれは、この村の人々と黒おにくんたちの間の関係であって、その他の人間たちとは必ずしもそうじゃない。だけど、それはおにと人間のことを考えたとき、とても大事なことが隠されていると思うんだ。ぼくも帰ったら村の人々との間に黒おにくんたちとのような関係を作りたいと思う。だからぼくは、もうすこしここに残って黒おにくんたちやここの村人たちと過ごしながら、人間のことやおにたちのことを、もっと深く考えておきたいんだ。それが、今ぼくがやらなければならないことだと思う」

「じゃあ、かならず帰ってきてくれるんだね」

「ああ。それだけはやくそくするよ。だから、きみは一足さきにかえって、村人たちとの間に、ほんとうによい関係をつくっていってほしい。ぼくがここに残る目的は、それをよりすばらしいものにするためなんだ。1てきの水があつまって川になり、いつしか大きな海になるように、赤くんと村の人たちの関係を、いつの日か日本中のおにたちと人間たちの関係に広げていきたい。ぼくは、そのために残るんだ」

「わかった。ぼくは先に帰るよ。そして、村の人たちといっしょに、きみが帰ってくるのを待っているよ。黒おにくんたちのことや、きみのことばを村の人たちにつたえながら、おにと人間がほんとうに仲良くくらせるようにがんばってみる」

 

こうして、赤おには雲に乗り南の方へ飛んで行きました。青おには、その姿が見えなくなるまで手をふり、赤おにを見送ったのでした。

 

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泣いた青おに 15

 ⑮

 

数日がすぎました。黒おに兄弟と青おにの手助けもあって、こわれた家やなやの建て直しも順調にすすんできました。明日には、屋根もできあがり、45日で、完成するような気配です。

「ああ、どうやら間に合いそうじャ。青どんのお陰で、仕事もはかどる。がけから落ちるしばいの時もそうやった。青どんが下で受け止めてくれたお陰で、みなが無事やった。みんな青どんがいてくれたからできたことヤ。ヨウも、オレらの山に立ち寄ってくれた。本当に、心から感謝するデ。ありがとうヨ」

 

青角の言葉を聞いて、青おには何か照れくさいような恥ずかしいような気持ちになりました。青おにだって、黒おに兄弟との出会いによって救われたような気がしていたのです。もしこの兄弟と出会ってなかったら、青おには、今もなやみ苦しみながら旅を続けていたでしょう。

「いや、そう言ってもらうと何かそこらがムズ痒くなります。おれも、ここでみなさんに出会えてなやみや苦しみから救われたのです。感謝するのはおれの方です」

「そうか、青どんも心が決まったか。そいつは良かったワイ」

 

青角はそう言って笑いました。そこへ黒角が大変な勢いでやってきました。

「おい! 青どん。お客さんじゃ。お前さんをたずねてお客さんが来とる。オレたちの岩やで待っとるデ、急いで行ってやってくれ」

 

青おには、不思議に思いました。南の山へ帰った黄おにのジイサマ以外には特にこの辺での知り合いはいませんし、ジイサマなら黒角は「お客さん」などとは言わないはずです。訳は分かりませんでしたが、黒角がせかせるので、青おには首をかしげながら黒おに兄弟の岩やへ向かいました。

 

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泣いた青おに 14

 ⑭

 

「清原のやつら、引き上げはじめたぞ。どうやら、かかってくれたようじゃ」

 

ジロ作の知らせに、村人たちはわきたちました。これで、戦う必要も、よそへ逃げる必要もなくなったのです。スケキヨの家と五兵衛ジイサンのなやは完全にこわしてしまわなければなりませんでしたが、あとはみな無事で、何の被害もありません。そして、何よりも大きかったのは、だれ1人として死んだものがなかったことでした。

「こんなにうまくいくとは思わンかった。みな、あんたらのお陰じゃ。本当にありがとう、黒角どん、青角どん、黄おにのジイサマ、青おにどん……」

 

五兵衛ジイサンはそう言って、地面につくほど深く頭を下げました。八郎や和助、アヤをはじめ、そこにいた村人はみな、涙を流しながらおにたちにお礼を言いました。

「なあに、礼にはおよばんよ。ワシらは、あんたらが好きやから手伝ったんや。おにの力、おにの悪名、それがこんな風に役に立つとはノゥ。なあ黒角、青角……。気の荒い暴れん坊でも、役に立ったというのがおもしろいと思わんか? つくづく、不思議なものじゃ」

 

黄おにのジイサマはそう言ってフォッフォッフォッと笑いました。

「まあ、オレたちもそうとうの暴れん坊じゃからなあ。でもヨ、黄おにのジイサマにいくら言われても気の荒いのが直せンかったオレらがこんなになれたのは、サヨぼぅやチビたちのお陰なんじゃ。言わば、オレたちにとってもあんたらは恩人。大好きで大切な恩人を助けられてオレらはムチャクチャうれしいんじゃ。なあ青角」

 

黄おにのジイサマや黒角の言葉に、青角もうなずきました。

「そうや、好きでやっとるし、みなが無事でオレらもうれしいんや。それでエエ。そんなことより、サムライどもが片付いたら、冬支度をやり直さねぇと……。壊れた家やなやを建て直さにゃイカンし、たきぎを集め直さにゃイカン。遊んでらんねエぞ」

 

青角の言葉に「そうやった」という声が村人たちの間からもれました。

「オゥ、寒さがキツぅなる前にやってしまうんじゃ。もちろん、オレと兄やんも手伝うからな。できるトコからかかろうヤ」

 

そんな様子を見ている青おにの胸の中を熱いものがかけぬけました。

 

人間とおにであっても、こうして深く心をつなぎ、助け合えるのです。青おには、ふと赤おにのことを考えました。赤おにのためによかれと思ってしたことでしたが、青おには、これほどまでに赤おにと村の人々の心を結び付けることができたでしょうか。

 

青おには、そっと黄おにのジイサマに言いました。

「何か……何と言ったら良いかわかりませんが、分かったような気がします。ジイサマ、おれもしばらくこっちを手伝って良いですか」

 

黄おにのジイサマはシワクチャの顔にさらにシワを作って微笑みました。

「ウン、そうしてやるとエエ。じゃが、終わったらワシのところへ戻って来てくれよ。何せ、この冬はお前さんと話をしながら越せるのを楽しみにしとるんじゃから」

 

青おにがうなずくと、黄おにのジイサマは、またひときわ楽しそうにフォッフォッフォッと笑うのでした。

 

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泣いた青おに 13

 ⑬

 

クロスケの報告が終わろうとしたとき、突然、頭から肩まで血だらけになったサヘイジが飛び込んできました。

「やつらは黒おにどもに追われ、がけから次々と身をなげました。おれも黒おにに見つかり、この通りです。気の荒い黒おに2匹が相手となると、われわれの刀ややりや弓矢でもたおせるかどうか。われわれは、おに退治にきたのではありません。急がねば、われわれの方にも死人やけが人が出ます」

 

家老は、サヘイジの言葉にうなずきました。

「そうだな。アヤ姫は捕えられなかったが、おにが相手では仕方がない。安倍のやつらの隠れ里が全滅したのであれば、もはや、先に進む意味はない。やつらのためにおにどもと戦ってやることもないしな。よし、おにに襲われぬうちに引くぞ。ただし、おにへの警戒はおこたるな。サヘイジ、クロスケ、ごくろうだった」

 

家老の決定によって、軍勢は引き返す準備を始めました。そして、音を立てないようにしながら、3人、4人とかたまり、次々と山を降りて行きました。家老は、最後にけむりの立ち上る村の方を見ましたが、黒い影のようなものが2つ、こちらの方に動き出したのを見ると、軍勢を急がせながらそこを離れて行きました。

 

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泣いた青おに 12

 ⑫

 

サヘイジが木のかげで様子をうかがっているうち、村人たちは、しだいに黒おにどもにがけの方へと追いつめられて行きました。そして、逃げられないと悟ると、1人、また1人とがけから身を投げ始めたのです。

 

サヘイジは考えました。このままでは、軍勢にも危険がおよびかねません。急いで、戻ってご家老にそう伝えるべきではないか。そう迷い始めたとき、不注意で足をすべらせてしまいました。

 

パキッという小枝の折れる音に、手前にいた方の黒おにが振り向きました。

 

しまった……とサヘイジが思ったとき、手前の黒おにがおそろしい顔をさらに怒らせながら、サヘイジのかくれていた木に向かって走ってきました。急いで木から飛び降りようとしたサヘイジでしたが、黒おにはあっという間に木の下まで来ると太いみきをつかみ、グラグラと力まかせにゆすり始めたのです。

 

サヘイジは、落とされないようにふんばろうとしましたが、こらえきれず枝から飛ばされ、草のしげみの中に頭から落ちてしまいました。

 

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泣いた青おに 11

 ⑪

 

朝の静けさをやぶって聞えてくる悲鳴やさけび声に、サムライたちは身がまえました。それは、めぼしをつけたカクレ里の方から聞こえてきます。別の軍勢が里を襲ったのかと考えて先を急ごうとしたサムライたちは、とぎれとぎれに聞こる「黒おにだ!」「またおにが出た」という声におどろき、顔を見合わせました。

 

安倍一族を襲うために50人もの人数を集めて山奥深く入って1週間。うわさをたよりにねばり強くさがしたかいがあって、ようやくきのう安倍八郎とアヤ姫を見つけました。2人を追って、カクレ里のあるこの山にふみこんだのですが、夕闇にまぎれて2人を逃がしてしまいました。しかし、ふもとの村の男のあんないで、やっとカクレ里らしき場所をつきとめたのでした。

 

あとは、一気に村を襲うだけ。そのための武器も人数も十分そろえてあります。けれど、1つだけ気にかかることがありました。それは、この辺りに住むという、気の荒い双子の黒おにのこと。安倍一族の相手ならともかく、賞金もほうびも出ない黒おにと戦うことになったらどうしようかと、サムライたちの誰もが考えていました。

 

そこへきて、このさわぎです。カクレ里の場所はまちがいなさそうでしたが、どうやら黒おにがあばれているような気配があります。軍勢を指揮する清原の家老は白いもののまじったヒゲをなでながら考え込みました。

 

家老は、しばらく考えてから、近くのものに兵を呼びに行かせました。すぐに、小柄な2人の若い男たちがやってきました。

「サヘイジ、クロスケ、おまえたち2人で様子をさぐってこい!」

 

軍勢を指揮する家老に呼び出された2人は、よろいを外して身軽になると、茂みの陰に身を隠しながら、注意深く叫び声のするカクレ里の方へと近づいて行きました。

 

しばらく行くと、予想通り、小さな村が見えました。2人は、高くはりだした木のみきにスルスルとよじのぼり、身を隠しながら村の様子をうかがいました。

 

そのとき、すぐ手前に立っていた家のかべがくずれ、中からおそろしい顔をした黒おにが姿をあらわしました。クロスケは、サヘイジと顔を見合わせました。

「おい、やっぱりそうらしい。あれが、うわさの黒おにだ。おれたちより先に、気の荒い黒おにどもが、ここを襲ったというわけだ。おれは、もう少し様子をさぐる。サヘイジ、お前はとりあえず黒おにのことをご家老に知らせてこい」

 

クロスケの言葉にサヘイジは黙ってうなずき、音も立てずに木を降りると軍勢のひそむところへと駆け出して行きました。

 

その間も、黒おにはあばれ回っていました。やがて、奥の方の家からも火やけむりがたちのぼり、村のあちこちから悲鳴や叫び声が上がり始めました。手前の家は、もう火の手もあがり、メリメリと燃えはじめています。

 

けむりにまかれながら、女や子ども、年よりが黒おにから逃げ回っているのも見えます。男たちは刀ややりを持って、必死の顔で黒おにたちに向かって行きますが、投げ飛ばされたり殴りたおされたりするばかりで手も足も出ません。

 

しばらくして、サヘイジが戻ってきました。

「黒おにがあばれていることは知らせた。様子はどうだ」

 

サヘイジのことばにクロスケは低い声で答えました。

「見ての通り、ヒデェもんだ。黒おにどもに先を越されたということヨ。このままじゃ、谷にでも落とされて、みんなやられっちまうぜ。奴らを助けるギリなどないし、おれは、このまま引き上げた方がイイと思うぜ。黒おにに見つかる前にな。まあ、決めるのはご家老だ。おれは、今までの様子をちくいち伝えて来る。今度はお前が見張っていてくれ。くれぐれも、おにどもに見つらぬように気をつけてナ」

 

そう言って、今度はクロスケが戻っていきました。

 

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泣いた青おに 10

五兵衛ジイサンは、深々と黄おにのジイサマに頭を下げました。

「ありがたいことじゃ。あんたらのお陰で、何とかなりそうじゃ。オニが乱暴者だなどと、いったいだれが言い出したんじゃろうノゥ。とんでもない誤解じゃわ。ワシらがどうどうと外へ出て行けるなら、そんなウワサは消し去ってやるところじゃ。オニは決して乱暴でおそろしいモノではない。人間に勝るとも劣らない優しさと知恵を持ったすばらしい存在じゃ。ワシは、本当にそう思う」

 

五兵衛ジイサンの言葉に、黄おにのジイサマは、ゆっくりと首を横にふりました。

「イヤ、そうでもない。オニの中にも乱暴で手がつけられんヤツはおる。人間もそうじゃ。心ねの優しいものとそうでないもの。数に違いはあっても、両方がおるんや。だから、優しいものどうしが力を合わせることができれば、きっといろいろなことができる。ワシらも、あんたらと出会うまでは、それがわからんかった。けんど、それを教えてくれたのが子どもたちじゃ。サヨをはじめとするチビさんたちが黒おに兄弟の心を開き、2人の心の奥底に眠っていた優しさを引き出した。それがあったからこそ今がある。じゃから、1番の手柄は子どもたちかも知れんテ。まあ、そんな話は後にしよう。今は、とにかくここをのりきることじゃ。オニの悪名がお前さんたちのために役立つのならワシらはそれでエエ。本当に分かりあえるものだけに分かってもらえれば十分じゃ。ワシらだって、乱暴な人間どもとなど仲ヨウはしとうナイしナ」

 

火やけむりを出すタイマツを作りながら2人の話を聞いていた青おにはハッとしました。黄おにのジイサマの言う通り、オニにも人間にもいろいろいるのです。

 

人間たちと仲良くなりたいと願っていた赤おに、そしてその赤おにの願いをかなえるためにしばいをし、大切な友だちと別れてここまできた青おに……。2人ともが、人間がすべて同じように優しく、乱暴なやつらは1人もいないと思い込んでいたのではないでしょうか。人間が善ならおには悪、そう思い込んでいたから、赤おにを善の中に入れるために、青おにはその分まで悪を背負わなければならなかったのです。

 

青おには周りをそっと見回しました。

 

集まっていた者は、おにも人間も心を1つにして準備に取りかかっています。細かい手順を考えるもの、たいまつをしばるもの、がけ下に張るあみを作るもの、荷物を移しているもの……。そこにはおにと人間、善と悪の区別などどこにもないのです。

 

そんな青おにの様子を見て、黄おにのジイサマはニッコリと笑いました。

「青どん、考えることもいろいろあるじゃろが、今は時間がない。準備を急がねばノゥ。ここは年よりや女たちでできる。お前さんは村に回って力仕事を手伝ってやってくれ」

 

その言葉に、青おには大きくうなずきました。そして八郎たちを手伝うために、黒角といっしょに村へ向かうのでした。

 

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泣いた青おに 9

「何とか仲良くすることはできないのですか?」

 

みんなの意見を聞いていた青おには、思わずそうたずねました。すると、五兵衛ジイサンは静かに首を横に振ってこう言いました。

「いや、清原党は男はみな殺しにし、アヤら若い娘らはさらっていくつもりで出て来とる。やつらの本性は、ウワサに聞いとった黒角どんや青角どんの何倍も荒々しいオニのような連中じゃ……。おっと、『オニのような』はなかったノゥ。黒角どんや青角どん、黄おにのジイサマなんぞは、その辺の人間よりもずっと優しい心を持っとる。ワシらがこのカクレ里で今まで暮らしてこれたのは、あんたらがいてくれたからじゃ。オニよりも人間の方がずっと乱暴でおそろしい心を持っとるのかも知れんテ」

 

その時、だまって目をとじたままウツラウツラしていたように見えていた黄おにのジイサマが、突然、カッと目を開きました。

「それじゃ! ノゥ、青どん。お前さん、友だちの赤おにどんと人間を仲良くさせるために、何をした?」

 

青おには、わけも分からぬまま答えました。

「ええっと、前に話しました通り、村であばれるしばいをして……」

 

そこまで言ったとき、五兵衛ジイサンと黒角が同時に「なるほど!」と叫んでひざをたたきました。黄おにのジイサマはフォッ、フォッ、フォッと笑いながら先を続けました。

「その通り。カクレ里が戦えば、何度撃退してもまたやって来るじゃろう。じゃが、『乱暴者の黒オニ』に村がおそわれたとしたらどうじゃ? ユウカンなサムライとかでも、わざわざ殺そうと追って来たカクレ里のためには戦うまい。そして、逃げ散った村人を追うことはあっても、オニがおそうようなところへ村人は戻って来ないと思うだろうし、自分たちもそんなアブナイところへもう1度来ようなどとも考えまいテ。」

 

ようやくみんなにも黄おにのジイサマの考えが分かりました。

 

黄おにのジイサマは、まちがって広がっている黒おに兄弟の悪いうわさを利用して、追っ手をだましてしまおうというのです。

 

そのために、家をこわしたりしなければならないでしょうが、追っ手に攻撃される被害から考えれば、ずっと小さくてすみます。それに、何よりもみんながここをはなれなくても良くなるし、うまくいけば、2度と追っ手もやって来ないのです。

「やつらをだますためじゃ。見えるところはハデにぶっこわしてもらわねばならんし、何人かは逃げ回ってもらわねばならん。里のあちこちでけむりを出して、家が燃えとるようにも見せんとアカンじゃろ。じゃが、そんなもの、戦ってこうむる被害を思えば何ほどのこともない。一晩あれば、準備はできる。やろう! みなの衆」

 

ケガのためにここに残っていた八郎が立ち上がり、りんとした声でそう言いました。黒角をはじめ、部屋にいた者もみなうなずき、口々に「そうだ!」「そうしよう!」と叫んで立ち上がりました。

「そうと決まったら、さっそく準備にかかろう! ジロ作、急いで和助たちにも知らせに行ってくれ。男どもは、東のはしにあるスケキヨの家と五兵衛ジイサンのなやの物を移して、こわせるように準備にかかれ。年よりと女どもは、子どもたちといっしょに燃やすものを集め、あみとタイマツも作るんや。おれも村へもどる。五兵衛ジイサンはこちらを頼む。何としても、夜明けまでに間に合わせるんじゃ!」

 

八郎のさしずにしたがって、入り口のところにいた年若い男が闇の中へかけ出して行きました。残っていたものたちも次々に動きだしました。

 

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泣いた青おに 8

 ⑧

 

「ありがたい、青どんも来てくれたか。大変なんじゃ」

 

2人の姿を見た青角は、おしころしたような声で言いました。青角は2人を連れて、おくの広いへやに入りました。初めて青おにがここに入ったときには子どもたちでいっぱいだったそのへやには、黒角と15人あまりの人間たちがあつまって何かを真剣に話し合っていました。青おにたちがへやに入ると、黒角たちは話を止めました。

「ジイサマ、青どんもよう来てくれた。スマンが、手と知恵をかしてほしいンや」

 

黒角は、こまりきった顔で黄おにのジイサマと青おにを見ました。

「おそらく、カクレ里に追っ手がかかっとるンやと思うが、くわしい話がわからんと何も考えようがない。雨雲にかくれていて見えンかったが、サムライどもがこの山にタクサン入りこんどるような気配は感じられた。黒角でも五兵衛どんでもエエ。くわしい話を聞かせてほしいンじゃがノゥ」

 

黄おにのジイサマがそう言うと、黒角のよこにいた人間のジイサマがうなずきました。

「さすがは黄おにのジイサマじゃ。ここまで来るわずかの間にそこまでお見通しとはノゥ。ジイサマが見たとおり、やつらに見つかってしもうたんじゃ。清原党の家人どもが450人ほど弓矢やヤリや刀を持って山に入って来とる。カクレ里で正面から戦える人数は20人足らず。こっちの人数は少ないが、地形としかけをうまく使えば、けが人や死人は出るじゃろうが、何とか撃退できる数じゃ。じゃが、それをすればもっと大人数で山に入ってくるじゃろう。そうなったら勝ち目はない。と言うて、よそにうつろうにも、冬が近づいているこの時期では、もはや準備も何もできん。第一、うつるところも分からんでは動きようがない。こまった、こまった」

 

五兵衛とよばれた人間のジイサマは、うでを組んだままそう言いました。

「おにのワシにも山の冬はこたえるわナぁ。ましてや人間の年よりや女子どもをかかえていては、今からよそにはうつれん。五兵衛どんやチビすけどもはコゴエ死んでしまいかねん。若いモンだけでも……とはイカンしなあ。それはそうと今のようすはどうナンや。ケガ人や殺されたモンはおるンか? そのへんも聞かせてくれんとノゥ」

 

黄おにのジイサマの言葉に、青角が答えました。

「八郎どんとアヤさんがやつらに見つかったのが始まりやったらしい。アヤさんを逃がすのに八郎どんが左のうでから肩にかけてひどい傷を負ったが、アヤさんは無事やった。伊介どんも弓矢を打ち合って右肩を矢がかすったけど、こっちは大した事はねェ。今のところ、ケガ人は2人じゃ。近道のつり橋を2つ落としたので、清原党はまだカクレ里にまで来てねェが、東からの道を回れば、明日の昼ごろにはやって来る。和助どんら7人は、東の外れまで出ばって撃退の準備を進めとるが何かうまい方法はナイもんかノゥ」

 

黄おにのジイサマは、それを聞くと目をとじ、しばらくおしだまってしまいました。他のものは、またアアデモナイ、コウデモナイと口々に話し始めましたが、なかなか良い考えは浮かびません。戦っても次が来る。逃げる場所は見つからない。意見はその2つの間でどうどうめぐりをしてしまうのです。

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