« 『化物語』 1~2 を読む | トップページ | 霜月の足音 »

『「子どもの発達障害」に薬はいらない』 を読む

ラックからのミニ評論42

 

「子どもの発達障害」に薬はいらない 《井原裕》を読む

 

 
長年、不登校ひきこもりの家族会と関わっていることもあり、発達障がいに関してはいろいろ勉強を重ねているので、個別やグループでの相談のみならず、講演やレクチャーを依頼されたこともある。研究会では現職の学校の先生方にアドバイス等を普通にできる程度の知識は持っているとの自負があるのだ。だから、行きつけの書店でこの本を見つけた時、まず「大丈夫かな? トンデモ本の類ではないだろうな」という思いが頭に浮かんだ。臨床心理学的に言えば、本人の状況に応じた適切な薬物の使用によって症状が安定し、学習や日常生活を送る上で、本人にとっても周囲の人々や家族にとってもプラスになるケースもあるので、薬物療法を全面的に否定しようという内容であれば、眉唾の読み方をしなければならないなあ、と思ったからである。だが、読みだしてからその危惧は消えた。その種のトンデモ本ではなかったからである。


精神医療の現場において薬物の全面否定は治療の選択肢を狭める愚行ではあるが、その一方で安易な薬物の使用は、依存や副作用という別の問題が生じる。私のカウンセリングの経験においても、クライアントの症状が飲んでいる薬物の副作用の可能性があるケースがあり、薬の量について症状をきちんと伝えた上でかかっている精神科医に薬の種類や量について相談してはどうか? という話をしたことがあった。大人でもそうなのだから子どもの場合はもっと難しい。精神系の薬物の場合、なぜ効果があるのか現時点で説明は難しいが、とりあえず効果が認められる薬物がある。だから、入院をして薬物のその子にとっての適量を調べてから正式に処方することもある。薬によって多動が治まり、学習や日常生活が安定する場合はいいが、薬が効きすぎて静かにはなっても一日中頭がぼうっとしていてあらゆる活動に消極的になってしまうような場合は明らかに問題だろう。また、発達途上の年齢の子どもたちに適正ではない大量の薬物を入れることがその後の精神発達に悪影響を及ぼすのではないかとの危惧もある。この本は、後者のようなケースに陥らないように薬は最小限に抑えた上で、その他のやり方も併用しながら症状に対処していこうとする立場で書かれた本だったのである。


では、その他のやり方とは何か。実際に大学病院において過度に薬に頼らない診療を続ける著者が着目したもの。それは、睡眠への着目と生活習慣の見直しである。様々な刺激に満ちた現代日本において、一般の子どもたち以上に刺激を直接受け取りやすい傾向のある発達障がいの子どもたちは、自分の限界を超える刺激に精神が興奮して睡眠が乱れ生活習慣がおかしくなっていくことは多い。ならば、睡眠と生活習慣に着目してそれを立て直せばよい、ということになる。生活習慣の立て直しという視点は、発達障がいの子どもに限らず大人でも有効に作用する、ということは、私自身がカウンセリングをしてきた経験からも非常に納得できるはなしである。実際、生活習慣が安定してくるとクライアント本人の症状も改善に向かってきたという経験は何度もある。ただ、私自身は今まで、眠りと生活習慣の安定の関わりについてそれほど意識はしていなかった。けれども、この本を読んでいて「なるほど」と納得できた。


その他にも、状況を改善していく具体的な手立てが、現場の経験を踏まえてわかりやすく説明されている。題名を見てちょっと身構えたが、読んでみるとなかなか興味深い内容の書かれたわかりやすく納得できる本だった。センセーショナルな題の付け方は販売のための戦略だったのかもしれないが、いい本に出合えたと思っている。

        〔完〕

 

 【TEXT】

『「子どもの発達障害」に薬はいらない』

     作 井原裕

  二〇一八年    青春新書

 

ISBN978-4-413-04542-1

|

« 『化物語』 1~2 を読む | トップページ | 霜月の足音 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/202908/67203337

この記事へのトラックバック一覧です: 『「子どもの発達障害」に薬はいらない』 を読む:

« 『化物語』 1~2 を読む | トップページ | 霜月の足音 »