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「閉じていく帝国と逆説の21世紀経済」を読む

ラックからのミニ評論39

 

閉じていく帝国と逆説の21世紀経済《水野和夫》を読む

 


2014年発行の「青い鳥」
63号において、この著者による『資本主義の終焉と歴史の危機』という本を取り上げたが、グローバル資本主義の矛盾は当時以上に深まり、格差はさらに拡大し、様々な混乱や争いの火種が世界各地に広まっている。


資本主義が終わりつつある……という指摘は、二〇一四年においてもかなりの説得力を持っていたが、三年を経た現在の状況は、より一層の説得力を有しており、新自由主義に反対する様々な動きは、いわゆる「右傾化」の動きとも複雑に絡まりながら、無視できない存在となってきている。一般の人々は多国籍大企業や巨大金融・大投資家が普通の人々のポケットに手を突っ込んで《利益》を確保しながら格差を拡大し続けようとする強欲さに怒っているのである。


元来、資本主義は、辺境と周辺部の富を中心部が吸い上げる構造を持つが、周辺部が力をつけることで、やがて新しい中心部に成長して中心が移動するという歴史を繰り返してきた。地中海貿易の中心部だったジェノアの力を大航海によって奪い、新たな中心となったスペイン・ポルトガル。その周辺で力を付け、新たな覇者となったオランダ、イギリス。さらに産業革命で圧倒的な経済力を誇ったイギリスだが、やがて周辺にあったアメリカやドイツに追い上げられ……。こういった経緯は、歴史の本を紐解けば容易に確認できるが、いずれにおいても、アジアや南米、アフリカといった辺境部の存在がその繁栄を支えていた。
 
共産・社会主義諸国の崩壊によってそれらの国々も周辺部へと加わる形になったが、製造を中心とした実体経済においてはやがてBRICs諸国がアジアNIESに続いて力を伸ばして行く中、アメリカとそれに追随するイギリスは経済的覇権を維持するためにネット空間を利用したグローバル金融資本主義を立ち上げ、世界中につながる金融ネットワークの力でその優位性を維持しようとした。それは、ネット空間を新しいフロンティアとして資本主義体制を維持していこうとしていたのかもしれない。
 
けれども、その後に起こったアジア経済危機やリーマン・ショックなどを通じて、実体経済と遊離したグローバル金融資本主義の暴走が格差を拡大し、経済を不安定化することに多くの国の人々が気付く中で、世界のあちこちで新自由主義/グローバル金融資本主義への会議や反対の声が上がり、広がっている。


多国籍大企業やグローバル金融資本にとって、国ごとに違う制度や安全基準、関税率は非効率な貿易障壁である。だからこそ、自由貿易体制を推し進めることが大企業や投資家の利益となる。だが、一般の民衆にとってはどうか。やすい輸入品は人々から仕事と収入を奪って生活を破壊するし、新自由主義が暗に《非効率》の要因として、なし崩し的に形骸化を進めている【環境保全】や【人権擁護】【安全】は、人間の生存にかかわる大切なものである。日本史を紐解いてみても、安政の不平等条約による関税自主権の喪失が民衆の生活を破壊し社会を混乱させた結果、討幕運動への支持が広がったことを考えれば、自由貿易体制が、必ずしも、一般の人々の生活向上にプラスに作用するとは考えにくい。とすれば、多国籍企業やグローバル金融資本の横暴に対して、国が国民の生活を守るために国民の実情に応じた安全基準や関税の設定
4をする必要があり、それは自由貿易の《障壁》となりうるものになる。ある程度「閉じる」必要が出てくるのだ。資本主義に代わるよりbetterな経済システムはまだ見えない。しかし、それを考えるために必要なもののヒントはこの本の記述の中に確かにあると言えよう。
   

              〔完〕
 

 【TEXT】

  『閉じてゆく帝国と

逆説の21世紀経済』

         作  水野 和夫

   2017年     集英社新書

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