« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »

『おおかみこどもの雨と雪』を読む

ラックからのミニ評論38

 

おおかみこどもの雨と雪《細田守》を読む

 

2016年に大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」を見に行った後、本屋で延べライス版を買った時についでに買ってしまったのがこれまたアニメ映画のノベライズ版『おおかみこどもの雨と雪』だった。

この作品もスタートはアニメ映画であり、さすがに映画館にまでは行かなかったが、すでにDVDでは見ていたし、マンガは以前から持っていた。こうしたアニメ、マンガ、小説といった様々なメディアで展開するパターンは、宇宙戦艦ヤマト辺りにまで遡ることができるのではないかと思う。TV、映画、マンガ、小説ともう四〇年以上も昔に買いあさったのを覚えている。その際に、メディアによって微妙に違ってくる部分があるのは実感していた。「おおかみこどもの雨と雪」についても、この際、小説版も読んでみようと思ったのである。

 
この「おおかみこどもの雨と雪」だが、子どもたちの成長と自立の物語だという見方がまずできるが、母親の花と雨について丁寧に見ると、母親の子離れの問題についても描かれていることがわかる。長年、不登校やひきこもりの問題と関わってきた経験からすれば、母親の子離れの問題はけっこう重要な意味を持つと同時に、現代日本の社会においてはなかなか難しい問題もはらんでいる。

 
花は、オオカミ男の夫を事故で失った後、二人の子ども達が、オオカミ、人間のどちらの生き方でも選びやすいようにと、子ども達を連れて山村に移住する。ずっと降りていかないと近所もない山の中だったが、ずっと下のご近所、韮崎のおじいちゃんや村の人たちに助けられ、支えられてそこで暮らし始める。

 
好奇心旺盛で活発な雪は、やがて小学校へ通い始め、人間の女の子として成長していく。病弱で臆病だった雨は、新川自然観察の森という施設で飼われていたシンリンオオカミと出会い、さらには森の主であるアカギツネと出会って森で生きる知恵を身に付けてオオカミとして成長していく。

 
雪は、草平という転校生の男の子とのトラブルでオオカミに変身してしまい、草平を傷付けるが、やがて草平とも次第に打ち解けていき、人間として生きようと決心する。一方、弟の雨は森で生きる道を選ぼうとし始め、二人の選択の違いが姉弟げんかとなって爆発する。それまで、雨に負けたことのなかった雪だが、森の知恵を身に付けてオオカミとして成長した雨の強さが勝り、初めての敗北をしてしまう。二人の生き方は分かれてしまったのである。

 
そこに至って母親の花に動揺が走る。オオカミと人間、どちらの生き方でも選べるようにと山の村に移住した花であったが、オオカミとして一人前である一〇歳の雨ではあっても、花にとってはひ弱な子どもであるさいう見方を修正できず、とうとう、雨が山に入るのを禁止しようとする。だが、山の主で雨の先生だったアカギツネの死と豪雨災害の危機の中、雨は師の跡を継ぐために山に飛び出していく。

 
こうした花の思いは痛いほど分かるが、そのような対応が子どもの自立や成長を妨げることにもつながっているケースは不登校やひきこもりの現場でも見られる。ただ、この物語では、雨は山に向かって飛び出し、後を追って山から滑り落ちた花を人里の駐車場に運んだあと、山に消えていく。花にとっての大きな喪失体験であるこのシーンは、映像ではわずかな時間の画面で表すしかなかったが、小説では、雨の咆哮を聞いて諦め、納得していく過程が文章で丁寧に描かれている。やはり、それぞれのメディアの特徴による違いという事でもあり、メディア展開の面白さを感じる部分でもある。

 
自立も、子離れも、多くの困難を抱えるものである。それでも、それを超えていく事で豊かな生が全うできる。それを、改めて感じさせてくれる作品である。

              〔完〕

 【TEXT】

  『おおかみこどもの雨と雪』

         作  細田 守

   二〇一二年     角川文庫

ISBN978-4-04-100323-7

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ファンタジームーン

ファンタジームーン

 

庭先の畑に

桜が香り始めたころ

ボクはぼんやりと

夜空を見上げる

 

数か月前の

冷たく尖った空気は

いつの間にか消え去って

星のマタタキも

どこかしらやわらかい

 

こんな夜には

妖精や魔物が

人の目から隠れて

宴会をしているからね

 

小さい頃

おじいちゃんが

そんな話をしてくれたのを

ふと思いだす闇の中

 

今夜は

何となくそれを信じたい

 

西の空で霞んだ月がささやく

現実の狂気に踊っていないで

そろそろこちらにおいで

 

ボクはそっと

左の手首を見つめる

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »