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『ログ・ホライズン』を読む

ラックからのミニ評論35

 

 

『ログ・ホライズン』 《橙乃ままれ》を読む

 


『ログ・ホライズン』を知ったのは、鳥羽の図書館の読書会のグループで取り上げられたのがきっかけだった。ただ、ゲーム、特にロールプレイングゲームをしたことがない女性メンバーが多かったため、作品世界についていけず、一巻も読み切れずに挫折したメンバーがほとんどだった。しかし、個人的にゲームをしていた時期もあったことから、HPやMP、プレイヤーのレベルといったイメージに違和感がなかったため、読み進めることができた。読んでいくと、ある程度コミュニケーション能力に問題のある主人公や登場人物の交流や人間的成長、民主主義や人権の問題などもいろいろと考えさせてくれるストリー展開であったため、結局、出版されているところまで小説を買ってしまうこととなった。この作品は、ネット連載で読めるだけでなく、マンガ化やアニメ化もされ、子どもたちに人気を博している。


ネットで世界中とつながっているファンタジー系のロールプレイングゲームである〈エルダー・テイル〉をプレイしていたシロエ(白鐘恵)たちは、〈大災害〉によって魔法や幻獣の存在する中世ファンタジー(エルダー・テイル)のゲーム世界に組み込まれ、現実に戻れなくなってしまう。もちろん、現実世界の記憶はあるのだが、ゲームの中でプレイしていたキャラに現実の自分が投影されているような外見となり、身体能力はゲームのキャラの特性とレベルによって跳ね上がり、普通の人間よりも強靭な肉体と体力、そしてキャラの職業によっては魔法も含む超人的な技を使える。だが、ゲームをやめて元の世界に戻ることはできず、殺されても復活してしまう。また、現実で暮らしていたような近代法のない社会で、現実に帰還できる希望の見えない絶望から、心の弱い人間は弱者いじめや自暴自棄の行動に陥る場合も出てくる。それを良しとしないシロエは、親友の直継やゲームでの冒険を共にしたアカツキ、にゃん太らと共にモンスターを倒したり生活を共にしたりするギルド【ログ・ホライズン】を結成し、マリエールやヘンリエッタらが集うギルド【三日月同盟】らと協力しながら、他のギルドにも働きかけ、自分たちの暮らすアキバに〈円卓会議〉という自治組織を立ち上げ、状況を改善するための努力を積み重ねながら、それぞれが人間的にも成長していく物語となっている。


巻き込まれた初心者プレイヤーを殺してアイテムやお金を奪うPKを禁止したり、プレイヤーである〈冒険者〉とゲーム中では背景であったゲーム内での人間たち〈大地人〉たちの社会との共存を模索したりと、シロエの発想はかなり自覚的で民主的で人権を尊重したものとなっている。また、限りある命を生きる〈大地人〉に対して、死ぬことも出来ず、また現実に帰還することも出来ない〈冒険者〉の苦悩や、復活に際して少しずつ現実世界での記憶が失われていくリスクあるいは恐怖など、ゲーム世界の特性と現実との対比の中で、生きることの意味を問い直すきっかけも与えてくれる。


それから、元々がゲームのプレイヤーということで、シロエやアカツキなど対人関係をちょっと苦手としている登場人物もけっこうあり、共に時間を過ごし、支え合う中で、お互いの弱さに向き合いながら心を通わせ、関係を深めていくことを通じてコミュニケーションも深まっていくなどという展開は青年期の成長課題などとの関係から読んでも非常にリアルで興味深い。


物語はまだまだ続いていくが、ゲームがらみと侮れない面白さがある。

              〔完〕

 

 【TEXT】

  『ログ・ホライズン』①~⑩

    作  橙乃ままれ

       二〇一一~一五年 

    KADOKAWA

 

ISBN978-4-04-727145-6   ISBN978-4-04-727298-9 

ISBN978-4-04-727413-6   ISBN978-4-04-727543-0

ISBN978-4-04-727669-7   ISBN978-4-04-728235-3

ISBN978-4-04-729175-1   ISBN978-4-04-729926-9

ISBN978-4-04-730190-0

ISBN978-4-04-730674-5

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