れみの情景 4
2-1
一週間が過ぎた。
日を重ねるごとに、れみと共に過ごす時間は増えていった。れみはいつも明るく快活で、そして気紛れでワガママだった。
「ホラ、いいでしょ! 講義なんかサボったって。言ったじゃない、え・い・が!」
「ヤーダ、やっぱり青のセーターの方がいい。その方が、絶対、直に似合うよ。だから、返しに行って来てよ。オネガイよ…ね」
「ねえねえ、やっぱりこっちの絵の方がいいよ。何か向こうの部屋の絵なんか『俺は大家だ』みたいな顔をして威張ってるもの。それに比べたら、名も無い人だけど、何故か胸にキュンと来るもの。…でも、この絵だけだけど」
いつも知らない間にそばにいるれみ。こっちの都合や場所などまったく考えず、思ったことをストレートに口に出すれみ。僕はいつもそんな彼女に振り回されっぱなし。初めのうちは閉口したが、2、3日もすると、それが妙に楽しくなってくるのだった。
また、れみと付き合い出してから僕の生活も少しずつ変わっていった。髪にていねいに櫛を入れたりして、服装や外見に少しばかり気を使うようになった。それに伴って、同じ学部の女子たちとの会話も増えていった。
れみの気紛れに振り回されながらも、それが、本や勉強以外の楽しさを知るきっかけとなり、他の人との交流もスムーズになった。その結果、肩の力が抜け、新しい見方が出来るようになって精神的にも余裕のようなものが生まれてきた。
それは、自分でも驚くべき変化だった。けれども、その変化に満足していたと思う。
人は1人では生きてはいけない。そんなことは頭では分かっていたが、やはり僕は他人が怖かった。そして、些細な事で傷ついてしまう自分が怖かった。結局、自分を変える事が怖かったのである。
しかし、変り始めてみるとすべては驚きであり、それ以上に喜びだった。そして、そのきっかけこそ、れみの存在だったのである。
そんな日々の中、れみは完全に僕の生活の一部になっていった。やがて、れみはキャンパスの外だけでなく、大学の講義にまでついてくるようになった。
そこで僕はれみの新しい一面を知った。一見、フィーリングだけで毎日を送っているように見えるれみなのだが、意外に深い知識と鋭い視点を持っているのだ。
語学や心理学などは特にそうで、下手をすると大学院生もタジタジとなるほどの知識を示したり、高度で綿密な思考を組み立てたりする。ノートなどを頼んでも、講義より分かりやすかったり、時には、こちらが調べ直したり質問したりしなければならないようなまとめ方をしてあったりする。
苦手な語学の講義では、何度れみに助けられたか分からないくらいであった。
「れみ、君はいったい何者なんだい?」
一度、僕はそう尋ねてみた。
「私? 私は宇宙人よ。ケンタウルス座の彼方から、UFOに乗って地球にやってきたの。直、あなたに巡り逢うためにね!」
れみは、大真面目な声でそう言って、キラキラ光る目でじっと僕を見つめた。けれども、その真剣な表情は五分と持たず、やがて吹き出してしまった。目が完全に笑っている。まさか、こんな冗談を本気にする奴なんて誰もいないだろう。
「コイツめッ!」
僕がそう言って拳を振り上げると、れみは小さく舌を出して謝った。
「ゴメンナサイ。ふふふ……」
そのままコツンと軽くれみの頭を叩く。れみはその僕の腕を取って自分の体に巻き付け、僕に体を預けた。踊るような動きの後、僕はいつの間にか後ろかられみを抱いていた。れみは、僕の腕を愛しそうに撫でながら小さな声で言った。
「本当のことは……お願い、もう少し待って……」
僕は何も応えなかったが、そっとれみの肩を叩いた。れみにはそれですべてが伝わった。れみは、微かに顔を動かして僕を見上げた。うれしさと、ほんの少しの悲しさがその瞳の中に揺らめいていた。
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