ラックからのミニ評論22
『めーてるの気持ち』1~3 《奥 浩哉》を読む
『めーてるの気持ち』は、マンガ家・奥浩哉が二〇〇六~〇七年にヤング・ジャンプに連載したものをコミック化したもので、全三巻が発売されている。メーテル……といえば『銀河鉄道999』のヒロインだが、当然、直接これに関係ある訳ではない。主な登場人物は、三〇歳でひきこもりを続ける慎太郎と、その父親と結婚し、すぐに未亡人になったはるか。他にも慎太郎の父やはるかの母など数人の登場人物場が出てくるが、「めーてる」という名前は出てこない。はるかは、二〇代前半で慎太郎よりは年下である。このようなマンガに、なぜ「めーてる」が出てくるのか。999のメーテルは、星野鉄郎の母代わりであると同時に恋人でもあった。だが、鉄郎の未来のために、すべてが終わるとひっそりと鉄郎の下を去っていく。そうした点ははるかの立ち位置と重なる。その辺りに、「めーてる」が出てくる意味があるのだろう。
作品そのものは、一応、ラブ・コメである。そして最後に慎太郎はひきこもりを脱して家族を持ち、ラーメン屋を経営するまでになる。けれども、そこに至るまでのはるかの努力や迷い、そして慎太郎の、家の外や他者に対する恐怖感などは恐ろしくリアルである。
例えば、はるかが風邪で寝込んだとき、慎太郎ははるかのために薬を買いに行き、買い物をして、おかゆを作る。けれども、一歩外に出るだけでも強いプレッシャーがかかり、気分が悪くなる。薬局で薬を買い、レジでお金を払う時も、心理的にはかなりシンドイ思いをしてやっとのことで買ってくる。しかし、はるかが回復するとまた外には出られなくなる。
実際のひきこもりに関わる相談の際に「イベントではなく、アクシデントがきっかけになる」という話をすることがある。周囲が意図的に何かをさせようとしてもうまくいかない場合は少なくないが、周りが意図していない出来事や事件がきっかけになって本人が動くことは意外にある。その点を考えれば、この風邪のエピソードは、けっこうリアルである。
他にも、慎太郎の三〇歳という年齢設定は、現在、ひきこもりの平均年齢は三〇歳を超えていると推測されていることから、それほど違和感はない。従って、「時間がない」という周囲の理解は重要だし、自立と関わって異性とのコミュニケーションの問題や性の問題、就労の問題などは大きな課題となる。そして、「母親」が「子どもがすべて」の人生ではなく、母親自身の人生を生きることも、「自立」のための「環境」として大切なポイントである。
はるかは、慎太郎の想いを受け入れることを決断し、「母親」ではなく、「恋人」として慎太郎を外に連れ出し、キスをする。そして、セックスも……。けれども、次の日、はるかは慎太郎が寝ている間に家を出て行く。一つは、慎太郎がズルズルとはるかに依存して自立できなくなってしまうことを避けるため、そしてもう一つは多分、自分の人生を生きるために……。
はるかが去ったことに気づいた慎太郎は、最初は怒り、悲しみ、自暴自棄になってはるかの残してくれたお金を無思慮に使ってしまう。けれども、はるかがどこかで見守っていることを信じて、アルバイトを始めようとする。仕事が出来なくて罵倒され、何度もクビになり、それでも仕事を続けた結果、慎太郎はラーメン屋の主人となり、家族を持つまでになる。実際は、就労から自立までの過程が大変で困難も多いのだが、この作品は、あくまでもラブ・コメなので一応はハッピー・エンドとなっている。が、実際のひきこもりの本人や家族の状況は、もっとしんどい。その辺りも含めて、気になる部分もあるが、上手に読めば、いろいろなことを考えさせてくれるマンガである。
〔完〕
【TEXT】
『めーてるの気持ち』1~3 奥 浩哉
2007年 集英社 ヤングジャンプコミックス
ISBN978-4-08-877196-0
ISBN978-4-08-877250-9
ISBN978-4-08-877291-2
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